「鳥類学者のファンタジア」

奥泉光(集英社)


時を超える饒舌な音楽小説


  著者は芥川賞作家。「葦と百合」「ノヴァーリスの引用」など、ドイツロマン派を勉強した者なら読まねば的題名に興味は覚えつつも手が出ないでいた。最近は少し傾向が変わってきたように感じていたが初読。実際のところはまだ知らない。

大長編ではあるが、ふわふわとした語り手につられて淡々と読み進められる。ページを繰る手が止められないほどの吸引力ではないが、心地よいリズムがある。ジャズっぽく饒舌な語りだ。

主人公の希梨子はジャズピアニスト。ある霧の晩のライブの合間に不思議な女性と出会う。彼女は幽霊か幻か。彼女を巡り、希梨子は時空を超える旅に。(しかしあくまでナチュラルに、クールに、というかアンチドラマチックに)

本屋に「旅行の好きな人、ジャズの好きな人、猫の好きな人には特におすすめです」というポップ(本のところに立ってる小さい立て札みたいな宣伝物。著者直筆もよくありますね)が立っていた。音楽が重要なファクター、というより、この話自体、スウィングするジャズの一曲というイメージか。なので、活字好きのジャズファンには確かに楽しめそう。夢のようなセッションも登場する。

たまたま昨日の朝日の夕刊にも書評が載っていた。わからないのは主人公のピアニストが象のような女性のイメージと書いてあること。私は内田光子とかアルゲリッチが茫洋としたような感じの人(どんな人?)を想像したけどな。

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