「 回送電車 」

堀江敏幸(河出書房新社)

〜確実な才能〜

近くの図書館の新刊コーナは小さい本棚一つ。そこにあったこの本を迷わず借りたのは、芥川賞作家の彼の本を以前から読んでみたいと思っていたことに加えて、シンプルな装丁と隷書体のタイトルに引かれたせいだ。内容も確かめなかったが、小説ではなく書評・エッセイ集のようなものだった。

万人向けではないと思うが、私にとっては親和性を感じる上質の本。エンタテイメント小説に偏った最近の傾向をリフレッシュさせる出会いで、久しぶりに気持ちがよかった。

「つまり回送電車とは、私たちの眼前にまぎれもなく存在しつつ、同時に現実と非現実のはざまをすり抜けてしまう不可視の列車なのである。」
「乗客の乗客の不在ゆえに模型よりも軽やかな電車が移動していくときの、一瞬の空気の弛緩」
こんな引用に引かれる部分のある人には強くすすめられる。決して難解ではない。本当は少しずつ読むのがよいと思われる丁寧な文章。

私の偏愛する天沢退二郎に少しだけ似ている。仏文学者の文章の傾向? そういうにはサンプル数が不足か。他の作品も読んでみよう。

直線上に配置