「リセット」

北村薫(新潮社)

〜「時」を超えるラブストーリー

 「時」の三部作の三本目。
 北村薫。
 そういう情報なしで読んだ方が、最初はもっと集中しやすい作品だったかもしれない。
 
 第一部は第二次大戦下の日本が舞台。北村薫らしく、丹念な取材で当時を描き出している。情景が雰囲気を伴ったそのものとして浮かび上がるシーンがある。私にとっては珍しいこと。やっぱり、うまいんだな。主人公の少女も、いつもの北村作品の少女と同じだが、それなりに女の子としてリアル。覆面作家だった当時、女性ではないかとうわさされたのもわかる。(でもやっぱり、映画の「桜の園」の少女的に男の人の幻想をしょってるとは思うけど、このまっすぐさが人を励ますのなら、必要以上にリアルである意味なんてどこにもないからね)
 その世界に浸ってしまえばいいんだけど、冒頭の情報のせいで、仕掛けが気になってしまう。何となく伏線として提示される独白もそれを助長するのだが、話はなかなか進んでいかない。
 第二部で話が変わってからも、世界の構築が丹念すぎて、面白いんだけど先を急いでしまう。面白い枝葉というのは北村薫の魅力でもあるのだけれど、今回に関してはもう少しタイトに主筋を追ってもいいのではないかと感じてしまった。
 独立した世界が魅力的なだけに、話の結構がぼやける気がする。読み急いだせいかなあ。

 話は、この文につけた副題の通りです。
 説明しちゃうとこれから読む人にはつまらないので省略。
 「スキップ」「ターン」が好きな人なら、おそらく絶対好きだと思うよ。

 恩田陸の「ライオンハート」も、同じテーマを扱っているが、北村薫の物語の始末のつけ方はとても甘い(スイートという意味で)。おとぎ話度を高めるこの形が、読む人を暖めるのだろうな。そのこと自体には文句ない。

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