「ラグビー愛好日記トークライブ集」 村上晃一(ベースボール・マガジン社)
〜やわらかな風の吹く場所〜
「ラグビー愛好日記」というブログがある。
ラグビージャーナリストの村上晃一が、ほぼ毎日更新している、
日本でいちばん新鮮で内容の濃いラグビーブログだ。
おそらく相当数のアクセスがある人気ブログだと思うのだけれど、
コメントもフリーで開かれた場所。
まだあまりラグビーを知らない時分に、ふとしたきっかけで読み
はじめたのだけれど、シロウトにも敷居が低くて好きになった。
グリーンとベージュの背景で構成されたこのブログは、なんだか
やわらかい風が吹いている晴れたちいさな公園みたいに思えた。
この本には、そのバーチャルな公園がそのまま現実に移動してきた
ような、あたたかな時間が記録されている。
最後の一篇を除いて、三鷹文鳥舎で行われたトークライブの模様を
まとめたもの。
編著者の村上晃一氏がホストになり、毎回ひとりのゲストを呼び、
ラグビーをめぐるトークを繰り広げた。
企画の意図はブログ同様、「ラグビー愛好家の人たちを喜ばせたい。
ラグビーを好きになるかどうか迷っている人、ほんの少しラグビーに
関心があるような人には、さらに好きになってもらいたい」というもの。
彼は人の話を聞くことがとてもうまい。確実なひとつの才能。
それが存分に発揮されて、それぞれのゲストの持ち味がわかりやすく
形になった。
ラインナップはこんな感じ。
藤島大 知と熱
小林深緑郎 博士登場
森本優子 温かな観察者
生島淳 外からの視線
冨岡鉄平 キャプテン
下村大介 熱血コーチ
安田紘三郎 やっさんの夢
各人のキャラクターは章のタイトルに端的に表されて不足がない。
あとがきから引けば、
「藤島さんの熱、小林さんの深み、森本さんの潔さ、生島さんの幅広さ、
冨岡選手の強さ、下村先生の元気」
この6色をセレクトしてトークライブのゲストとしたバランスの良さが著者の
特質でもあると思う。それぞれに違った味の楽しみがある。
ラグビーが好きな人は迷わず最初から読めば深く満足できるはずだし、
少ししか知らない人も、トップリーグ東芝のキャプテン冨岡選手の章か、
高校ラグビー部監督の下村先生の章あたりから入れば、優れたスポーツ
マンの語りとして、すぐに楽しめる。
著者の人となりに興味があれば、昔同僚だった編集者の森本さんの章を
読むとわかりやすく浮かび上がって来るものがあるし、スポーツジャーナ
リスト藤島大さんとのやりとりの中にも、人類愛にあふれた村上晃一像が
出てくる。
藤島さんの章はコーチングを考える上でも面白いし、ラグビージャーナリスト
小林さんの章は世の中には尋常でない情熱に支えられた博識があるのだ
なあと感心できる。
スポーツライター生島さんの章は、ラグビーに留まらず幅広い話題で楽しめる。
そうそう、二人は芝居好きで、芝居とラグビーの共通項、なんて話も出てきて
いた。
ラグビーというフィルターを通して、その人その人の魅力が見えてくる。
あるいは逆に、各人が語ることばからラグビーの魅力が浮かび上がる。
ラスト一篇は、昨年亡くなった名物ラグビーファンのポートレート。
ここでは著者の確かな筆力を感じることができる。
あたたかな視線が、くっきりと人を浮かび上がらせている。
何かについて語り尽くすことは、その何かにとどまらず世界のすべてを
語っているに等しいのかもしれない。
ラグビーフリークではない故にそんな感想を抱きつつ、やはりラグビーって
特別だなとも感じる。
読んだあと、あなたがそれまでもしラグビーを知らなかったとしても、きっと、
もっと知りたくなるだろう。
まえがきに「自分の好きなことをしていないと人を喜ばすことはできない」と
あるのだが、言葉通り、彼は全てのトークライブをほんとうに楽しみ、この本を
つくったのだと思う。
その「思い」が溢れている。しあわせな本である。
ちなみに今年は9月からラグビーのW杯がある。
この本を読んで、みんなでW杯を観よう。