「仲間を信じて〜ラグビーが教えてくれたこと」

 村上晃一(岩波ジュニア新書)

〜人が象徴する「ラグビー」というもの〜

あるスポーツを観るようになるきっかけはいろいろあるが、 大きいのはやっぱり「人」かなと思う。
無論たまたま競技の面白さに魅せられるということも あるのだけれど、個人の輝きからスポーツ
自体の魅力に 気づいていく人は多い。 そう考えると,これはラグビーというスポーツを知るきっ
かけとして最適な本かもしれない。
6人のラグビープレイヤー(現旧あり)のポートレートが 収められている。いずれも魅力ある「人」
のスケッチ。

1努力する天才 大畑大介
2一所懸命を楽しむ 菊谷崇
3苦を乗り越えて得た自信 大東和美
4信じられる師と出会って 井口資仁 5ONE FOR ALL,ALL FOR ONE 林敏之
6夢みるちから 神谷考柄

最後の一人を除いて、ラグビーのメインシーンで活躍した 人たちなのだが、岩波ジュニア新書と
いう性格もあって, 特に学生時代を中心に光を当て、それぞれのラグビー人生 が語られる。
各人のエピソードがそれぞれに興味深いが、若いころに 焦点を当てているせいか、特に現役学生
である2人の章に 魅力を感じた。

井口資仁は、早稲田大学のプレイヤー(今年卒業) 彼が何故、負けた試合の後で笑顔だったのか
という疑問 から始まるところに惹きつけられる。今も途上にある人 の描き方がうまい。

もうひとりの学生神谷考柄は、無名の選手。 彼は、ほとんど視力がないながら、普通の選手に交
じって 中学高校とラグビーを続けてきた。 「高校生活で信頼できる仲間に出会えたことは大きかった
です。だからこそ、自分には何ができるのかを考えるよう になりました。みんなが自分にこれだけの
ことをしてくれ るのだから、自分が周りに対してできなかったら失礼です。 僕は弱視でよかった。これ
も高校三年間で強く感じたこと です。目が見えないからこそ、負けたくなくて、ここまで がんばってきた。
仲間を信じるということも知った。ラグ ビーは、人の温かみを感じられるスポーツです。」
章のタイトル「夢みるちから」は彼の所属した日新高校 ラグビー部のスローガンなのだけれど,内容を
象徴する 素敵なことばだと思う。 普通には信じられないようなことを現実にするちから。 筆者も「ラグビ
ーの枠で語ってはいけないことだろう」 としつつも,そういうことができ得るこの競技のすばら しさを伝え
たくて,この本を作ったようにすら感じた。 最後にあって核となる一篇。

筆者はさまざまな形でラグビーの魅力を伝えている、ラグ ビージャーナリスト。
これまでにも「ラグビー愛好日記」(ベースボール・マガ ジン社)など,ラグビーの魅力を伝える著書があるが,
(ここでも紹介済み)今回の本が,新しく「ラグビー」を 知る人にとって,人を通して端的にその魅力をつかむ
には, もっとも適しているかもしれない。
ラグビーのポジションを説明する文章の表現も魅力的。 「「ロック」はスクラムに「鍵」をかけるという意味だと
言われている。フォーメーションの両端にいるのは、 「ウイング」、つまり「翼」。足の速い選手が、みんなが
つないでくれたボールをトライまで持っていく。それぞれ の専門家が力を合わせるのだ。」

ジュニア新書といっても,「子供向け」ではない。 すべての世代におすすめできます。
この本を読んで,ラグビーを観よう。
競技の魅力を感じ取る補助線の役割を果たしてくれるはずだ。

直線上に配置