共に歩こう、FC東京


試合開始直前。

スタジアムに、恒例の曲、『You'll never walk alone』が流れる。
ホーム側スタンドで一斉に掲げられるマフラータオル。
ゴール裏でぎっしり身を寄せ合うコアなサポーターたちの殆ど全員が、細長いタオルをフィールドに向け両腕で突き出す。バックスタンド席でもかなりの人数が同様に倣っている。

いつもながらちょっと奇妙で、不思議な光景。


その昔、初めてFC東京の試合を観た時、試合前に流れるこの曲に違和感を感じていた。名曲なのは分かるのだ。ただし、ゲーム開始直前に流すにしては、この曲、チト寂しすぎないか。
そうして、同時に応援席で掲げられるタオル。まるで国歌の吹奏にあわせて国旗を掲げるかのように。
そこにあるのは、ゲームを前にした興奮ではない。盛り上げようとする意志でも、選手に対する鼓舞でもない。言うなれば、試合前の儀式。

私にはよく分からない。いや、全く分からないワケでもないのだが、その根底にある『精神』というべきモノを理解しているとは言い難い。もちろんチームの勝利を祈るのだろう。だが、それだけではない。彼らは『歴史』を作ろうとしているのだ。選手やクラブ関係者、そしてサポーターが共有する歴史を。

いつの日か、私にも分かるのだろうか。
スタジアム観戦の回を重ねるにつれて、いつしかこの曲を口ずさむようになった。スタンドの席に身を埋めた時、なんだか懐かしい場所に戻って来たような感覚を持つようになったことも事実。あとしばらくすれば……ここに来て、この曲を聞いて、フィールドに向けて旗を掲げる光景を見た時……体中が震いたつような『何か』を感じられる日が来るのだろうか。

来るかもしれない、来ないかもしれない。
それは、私にも分からない。