僕は誤解している(その1)



F子とデートするコトになった。

誤解のないように説明しておくと(誰もしないと思うケド)F子とは先に登場したサロンドの美容師さんのコトではない。私の学生時代の後輩である。今はさる地方都市に住んでいるのだが、所用があって上京してくるというのだ。どうでもいいコトだが(よくないが)、これが結構カワイイ

「東京ビッグサイトってトコに行きたいんですけどぉ……よかったら案内してもらえませんか?」
久しぶりにかかってきた電話の向こうでF子がささやいた。

してあげようじゃないの。ビッグだろうがスモールだろうが、オジサンがどこまでも案内してあげる……なんて言った日には下心があると思われてしまうので、「うーん……俺も結構忙しいんだけどねぇ」なんつって言葉を選びながら「ま、しゃーない。案内してやるよ」と気障に喋ったワタシなのであった。
「ありがとうございますぅ。楽しみですぅ」とF子。

受話器を置いた後でガッツポーズしたのは言うまでもない。なんだ、ワタシもまだまだイケてるじゃん。ハッキリ言って下心なんてアリアリなのである。

「今日は疲れたねぇ……おぉ、なぜかここは渋谷だ。でもって意味なく円谷町だ。おやぁ、キレイな建物が並んでいるね。ちょうどいいから一休みしていこうか。大丈夫。絶対に何もしないから」

ワタシの脳裏で、既にそこまでのストーリーは出来上がっていた。後は、ごく自然に渋谷までいざなうだけ。久方ぶりのビッグチャンスに私は燃えていた。ただ一つ……気がかりだったのはF子が言ってた『東京ビッグサイト』のこと。いきなりF子を円谷町に連れ込むのは、いくらなんでもあんまりだから、とりあえずそこには行かずばなるまい。しかしワタシ、そんな妙な名前の場所には行ったコトがなかった。今にして思えば……それがそもそもの過ちの始まりだったのだ。


翌日、早速稽古場で劇団員から情報収拾するコトにした。
「東京ビッグサイトってどこにあるの?」
正直に尋ねた私に、団員のKは露骨にバカにした顔で「そんなコトも知らないんですか」と言った。分かりきったコト聞くんじゃないよ。知らないから聞いてるんじゃないか。

「『ゆりかもめ』で行けばすぐですよ」
さんざんバカにした後でKが教えてくれた。
「ゆりかもめ……って、どこから出てるの?」
「新橋ですけど」
「新橋からどうやって行くの? その、ゆりかもめの乗り場まで」
「駅に案内板が出てるからすぐ分かりますよ」
いささかうんざりした顔でKが言った。そう言えば……聞いたコトがある。確かうちの照明さんが『ゆりかもめ』に乗って仕事場まで通ってると言ってたな。『ゆりかもめ』で通勤なんてオシャレじゃーん、と思った覚えがある。

なかなかいいじゃないの。

と、思いましたね。『ゆりかもめ』に乗って東京湾をランデブー。事前のムード盛り上げには最高じゃないですか。私の脳裏に、F子と二人で潮風に吹かれながらカモメを見上げている情景がありありと浮かんできた。

嗚呼、バカですねぇ、オトコって。
思えばこの時、ワタシは既に取り返しのつかない『誤解』をしていたのだが……何をどう誤解していたか分かります?


待て、次号。



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